「長崎の鐘」殺人事件

吉村 達也




	背景にキリシタンの歴史



  推理作家、吉村達也の通算100冊目の記念すべき作品だ。  事件の背景にあるのはキリシタンの歴史と原爆。主な舞台は長  崎と五島、島原、北松生月島だが、推理を楽しみながら、キリ  スト教徒と隠れキリシタンの違いを、実に分かりやすく説明し  てくれるなど、ふんだんに顔をのぞかせる長崎の歴史について、  教えられることは多い。   後書きの「取材ノート」(徳間文庫)はぜひ一読したい。

密室殺人

  まずは、あらすじを簡単に説明しておこう。   詐欺まがいのネズミ講で金をかき集めた長崎出身の比例区選出  代議士、立浪辰之輔。傍若無人・ごうがん傲岸不遜・厚顔無恥の  悪評など、ものともしない。   その愛人が、都内の超豪華マンションで無残な姿で刺し殺され  るのが事件の発端。枕元にはミニチュアの長崎の鐘。   続いて辰之輔の弟が福江で熱湯に投げ込まれて殺される。死体  のそばには、やはり長崎の鐘が。いずれの事件にも共通している  長崎の鐘  のが、密室殺人ということだ。   犯人は何故に、殺人現場を密室にしたのか。事件を解く鍵とな  る。謎解きに、推理作家朝比奈耕作が登場する。

異色作家

  吉村は経歴からいっても異色作家のひとりだろう。   1975年に一橋大学を卒業しニッポン放送に入社。制作部ディ  レクターとして「タモリのオールナイトニッポン」「松山千春のオ  ールナイトニッポン」などを担当。自らも半年間、パーソナリティ  ーとしてマイクの前に立っている。   その後、同じフジサンケイグループの出版社扶桑社に出向。書籍  部門の編集長として、全盛期のおニャン子クラブの本をすべて作る  など、タレント本を中心にヒット作を出している。
  86年『Kの悲劇』で作家デビュー。一方で扶桑社ミステリー(文庫)  初代編集長も兼務。マイケル・ジャクソンの母キャサリーン・ジャク  ソンの伝記『マザー』執筆プロジェクトで編集プロデューサーを務め、  著者インタビューでマイケル・ジャクソン邸まで出かけたりしている。   90年に横溝正史賞に応募した『ゴーストライター』が最終候補作に  なったのを機に作家に転じた。作家専業第1作はサイコセラピスト精  神分析医・氷室想介シリーズ『編集長連続殺人事件』。『長崎の鐘』  が通算100冊目という。(吉村さんのホームページから)

土着切支丹

  同じ推理小説といっても、『「長崎の鐘」殺人事件』は、のっけから  30数枚にわたってキリスト教の日本伝導史が繰り広げられて、少々どぎ  もを抜かれる。   吉村が作品を書くに当たって、参考文献として挙げているのが浦上小  教区編『神の家族400年』、長崎純心女子大教授宮崎賢太郎さんの  『カクレキリシタンの信仰世界』、純心女子短期大学副学長だった、故  片岡弥吉さんの『日本キリシタン殉教史』、ブライアン・バークガフニ  さんの『花と霜 グラバー家の人々』など。   事件はもちろん現代に起きているのだが、推理作家、朝比奈耕作の語  りを通して、フランシスコ・ザビエルが日本に布教のためやって来るきっ  かけとなった弥次郎の話、遣欧少年使節、26聖人の殉教、雲仙地獄の熱  湯に漬ける拷問などが、どう事件と関わりをもってくるか、知らず知ら  ずのうちに、日本キリスト教史を学べる。
  特に詳しく説明しているのが隠れキリシタンについてだ。信教の自由  が保障されたあとも、なぜ隠れ続けなければならなかったのか。  「隠れ切支丹」なのか「カクレキリシタン」なのだろうか。吉村は「土  着切支丹」という言葉をあてている。   吉村が下敷きにした宮崎教授には、近著『カクレキリシタン オラシ  ョー魂の通奏低音』(長崎新聞新書)があるので、ほかのところで詳し  く触れたい。

取材旅ノート

  『「長崎の鐘」殺人事件』を書くに当たって、吉村は長崎まで、取材旅  行をしている。   1996年12月23日から26日まで。クリスマスを長崎で、という趣向だった。

神々しい夕陽

  長崎を経て五島に入った。奥浦湾の入り江そばに建ち、抜けるような青  空と赤レンガの堂崎天主堂を見て、「日本にいることを忘れさせた」と感  動している。海に浮かぶ夕陽には「神々しさ」さえ感じた。   レンタカーで石田城跡、武家屋敷、五島コンカナ王国など立ち寄った。

  東坡煮に舌鼓

  長崎に戻って、平和公園、爆心地、浦上天主堂、グラバー園、大浦天主  堂など見て回る。   老舗の坂本屋で東坡煮に舌鼓。市内を見物した。

噴火まんじゅうも

  レンタカーで雲仙に向かう。千々石川沿いに山を登っていく県道210号線  にコースをとったため、見通しの利かない狭いカーブの連続に肝を冷やした  ようだ。   雲仙では「溶岩ドームアイスクリーム」や「噴火まんじゅう」の名に驚い  ている。   雲仙地獄を見たあと、火砕流や土石流の被害を受けた深江町の大野木場地  区に行っている。間近に迫る普賢岳の迫力に恐怖を感じた。


            吉村 達也(1952〜)大阪生まれ。作品に、推理作            家・朝比奈耕作シリーズをはじめ、温泉殺人事件シリ            ーズ、サイコセラピスト・氷室想介シリーズ、里見捜            査官シリーズなど多数。


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