長崎ぶらぶら節

     なかにし礼




	売り込んだ長崎

写真は梅園天満宮と『長崎ぶらぶら節』の碑

 一世を風びした≠ニいえば少々時代がかった表現になるが、長崎をこれほど 全国に売り込んでくれた作品は少ないだろう。  作者にも話題性があった。なにしろ数々のヒット曲を飛ばした著名な作詞家で ある。発表の時期もよかった。長崎は折から、日蘭交流400年を記念する「なが さき阿蘭陀年」(2000年1月〜2001年3月)の最中だった。
 『長崎ぶらぶら節』は月刊誌で発表の後、大幅加筆され、阿蘭陀年前年の11月 30日に出版されている。  長崎市内の、どの書店でも平積みされた小説が飛ぶように売れ、翌1月7日には 直木賞候補作となって、14日には受賞決定、全国からの注目が集まるようになる。

愛八と十二郎

 あらすじを簡単に紹介しておきたい。  長崎郊外の網場に生まれたサダ(愛八)は10歳で丸山に行儀見習いとして奉公 に出る。  芸事の才能は20歳を過ぎた頃から花開き、丸山5人組としてめきめき売り出し た。  太っ腹で義侠心があり、苦労している者に対しては、見ないふりができない。 街角に立つ花売りの娘に、お座敷帰りの花代を、そっくりくれてやるのもしばし ば。「宵越しの金を持たない」から、わが身はいつも貧乏だった。  大相撲の長崎巡業では、愛八の羽織が飛び交い、掛け声がかからないと始まら ないといわれた。海軍好きでも知られた。  そんな愛八だが、宴席で郷土史学者の古賀十二郎と出会って一目ぼれする。埋 もれている長崎の歌を発掘しようという十二郎と一緒に、歌探しを始める。

    映画化に協力

 直木賞を受賞した作品には、すぐに映画化の話が持ち上がった。3月8日に、な かにし礼を迎えて長崎市で開かれた受賞祝賀会。この席で、映画製作への協力要請 というかたちで発表された。  監督深町幸男、脚本が諫早市出身の市川森一。愛八に吉永小百合、十二郎に渡哲 也、ほか高島礼子、原田知世、藤村志保、いしだあゆみという豪華キャスト。  地元は「ながさき阿蘭陀年」、観光PRのためにも絶好のチャンスである。ロケ には長崎商工会議所を事務局に全面的に協力、映画化決定から、わずか半年という 異例のスピードで完成した。

  テレビと舞台

 追っかけるようにテレビ(朝日テレビ、4月21日放送)にドラマ化される。主演 に市原悦子、藤竜也。ほか宮沢りえ、八千草薫、萬田久子ら。  東宝は、帝国劇場創立90周年記念公演として舞台化(10月31日〜11月25日)する。 佐久間良子、古谷一行、松坂慶子という、こちらも豪華キャスター。  愛八の歌う『長崎ぶらぶら節』も復刻版CDが発売され人気を呼んだ。

地域経済効果も  長崎経済研究所(十八銀行系シンクタンク)が『ベストセラー小説が地域にもたら したもの』というレポート(2001年12月号)をまとめている。  映画の観客動員数は全国で114万人に達するという大ヒット。長崎県内では人口の 5%にも相当する7万人が観賞したという。  主演の吉永小百合さんは、第43回のブルーリボン賞主演女優賞、日本アカデミー賞 の最優秀主演女優賞、芸術選奨文部科学大臣賞などそうなめした。

文学碑の建立

 新聞やテレビなどマスコミも競って取り上げた。「ぶらぶら節散策マップ」もでき、 狭い坂道を上っての、丸山界隈を訪れる観光客はうなぎ上り。  長崎は、なかにしに感謝するほかはない。梅園身代り天満宮には、なかにしの揮毫 による文学碑も建立され、除幕式(2003年6月8日)では長崎検番の芸妓さんたちが、 祝舞「長崎ぶらぶら節」をあでやかに披露した。

 古賀十二郎 生家は五島町の大店「万屋」。明治 12年生まれ、昭和29年9月、76歳で亡くなった。 「長崎学」の創始者。 長崎市立商業学校を卒業の あと、東京外国語学校(東京外国語大学)に学ぶ。 広島で3年間英語教師を勤め、家業を継ぐが、長崎 学の研究に専念したことから、家業は傾く。  昼間は寝て、夜に研究に没頭。『長崎評論』を創刊。 日本3大名著とも評される『長崎市史風俗篇』や『西 洋医術伝来史』『長崎開港史』『丸山遊女と唐紅毛人』 など多数の名著がある。  研究のためには金を惜しまず、花街風俗史の研究の ため、連日のように芸者、舞妓を従えて遊んだという。

てるてる坊主の照子さん

 NHK朝の連続テレビ小説『てるてる家族』(2003年9月)の原作。  結婚式で、神主の祝詞の最中に空襲警報。角隠しのついたかつら鬘を素早くは ずし、足袋裸足で真っ先に逃げ出した新婦の照子さん。帝国陸軍の少尉ながら、 酒も銃も苦手、そのうえ運動神経は鈍いが、これも逃げ足だけは速かった新郎の 春男さん。  敗戦で、春男さんは佐世保に進駐した米海軍のパン工場でパン・ケーキ作りを 修行する。  やがて大阪で開店、4人の娘を育てながら、夢を追い求めていく。  テレビでは四女の冬子に石原さとみ、春男さんに岸谷五朗、照子さんに浅野ゆ う子。

なかにし礼(1938年〜)中国黒龍江省生まれ。 立教大学在学中から作詞家として活躍。『天使の 誘惑』『今日でお別れ』『北酒場』で日本レコー ド大賞を3回受賞。『知りたくないの』『恋の奴 隷』など多くのヒット曲がある。小説に『兄弟』 『赤い月』など。



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